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仕事の鬼  a demon, a tough sarge

devilの「イ」をイーと引き伸ばすと、keep(連続)する。だからdemonの方がたちが悪くなる。途中で簡単にやめないので、手強い相手になる。BBCによる「リア王」でしょっちゅう出る悪魔は、devilでもdemonでもなく、fiend(フィーンド)であった。イーと伸びるから、もっと性質(たち)が悪い。アメリカ人はfiendはあまり使わない。devilかdemonがよく登場する。

He works like a demon.? 鬼のように働く。He’s a demon. でもいいが、とにかくdemonは「イー」と長引くので、簡単にギヴ・アップすることはない。「鬼の上司」という言葉は決して、非人情的な上司のことではない。心を鬼にしても部下の教育のために、部下をしごく上司のことだ。日本で使われる鬼のシンボルは、決してネガティヴではない。

私の同時通訳の師匠の故西山千は、まさにtough sergeant(鬼軍曹)であった。Sergeantとは、軍曹曹長級の下士官であった。それはそれは厳しい師匠だった。しごかれた。私も師の面前でYou’ve been a tough sarge.? And you mean a lot to me.(鬼の上司でした。その意味で本当にお世話になりました)と英語で申し上げたことがある。

Sargeとはsergeantの略である。
師を鬼軍曹呼ばわりしたが、親愛の情というものだ。バイリンガルの師匠も、苦笑いされていた。

思い切って、demonという言葉にした方がストレートでよかったのかなとも思っている。Demonとは、ギリシャ語のdaimon(天才、神)からきている。「人間の運命を割り当てる人」が原義である。

師匠が他界されてから、私は師をギリシャ語でいうdaimonとして崇め続けることにした。もう大神だ。私は犬の先祖の狼が大好きな人間だが、この狼も大神からきている。大神とは、神を敬っていう語だ。

西山師匠は私のgreat spiritだ。ソクラテスもダイモンに動かされた。レオナルド・ダビンチにとり、ソクラテスがダイモンであった。
古代ギリシャは、人間の行動のエンジンをロゴス(知)、パトス(情)、エトス(意)と三分類したが、さらにもう一つが隠れていたがニューッと顕れた。

Muthos(ミュートス)、つまりmyth(神話)である。これは、時空を超越する概念なので、spiritにあたる。Mind-heart-soulも、身体の死とともに消え失せる。しかし、spiritは消滅しない。

これが、ソクラテスが師と仰いだダイモンではないか。まさに代紋だ。この精神は、永遠のものだと思う。多くの天才的な教育者や芸術家がソクラテスから学んだのもこのdaimonかあるいはMuse(ギリシャ神話でいうミューズ)だ。それはまさに炎(flame)のスピリットであり、torch(たいまつ)だ。そしてディベート道を信奉している私もその炎の継承者の一人だ。I am a carrier of the flame.

余談ながら私は護国の鬼(guardian god)になりたいという願望もある。私が夢見るこの鬼は、一時的なものではないから、やはりdemonだろう。
2009年9月11日
紘道館館長 松本道弘