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生粋の  true-blue, dyed-in-the wool 

リア王に「若い」といわれたコーデリアはこう答えた。So young, my Lord and true.
「若いけれど、私の心は純粋です」と言いたかったのだろう。イギリス英語でもこのtrueのウ音が聞き手の魂を揺さぶった。生粋はもっと純粋なのだろう。

「生粋」とは、和英辞典によるとpureness。
「生粋のアメリカ人」は、a native-born Americanかa dyed-in-the wool Americanと、その辞書は無難な例文をのせている。Cool!(しぶい)

しかし、日本語も英語も、例文の内容面でも、無理がある。生粋のアメリカ人が原住民(インディアン)なら、きっと誤解も招くことになる。オバマ大統領好みの映画『カッコーの巣の上で』(One Flew over the Cuckoo Nest)が話題になったのか。カッコーの英語cuckooは、クークーと発音する。

日本語でいうクルクルパーのクーの音霊は精神異常のことだ。そして精神病院とは、ルーナティック・アサイラム。満月(full moon)に向って、ウォーンウォーンと吼える、狼(wolf)はウーの世界。向こうからfluteの調べに乗ってニューっと顕れてくるflu(インフルエンザ)も母音が視覚的効果を高めてくれる。

だから、moonのLunaが「異常」「狂」に結びつくのだろう。She’s mooning over him. といえば、「彼女は、彼にのぼせあがっている」という状況だ。そういえば、理性を狂わせる酒もboozeという。Bootlegは密造(密売、密輸)のことで、これは異常でしかも違法でもある。moonlightもmoonshineも、どちらも密造酒の意味だ。それほどウーは、不気味なほど吸引力の強い言葉なのだ。

「生粋のアメリカ人」という例文はピンとこない。「生粋のロンドンっ子がa Londoner born and bred; a cockney」は正しい。しかし、この生粋の粋は、pureよりも同じウ音を持つblueで捉えたい。皇室の血はblue bloodというが、それほど、深いのだ。Blue yonderは「はるか彼方」のこと。

青色も深海も、かなりdeep blueの領域にあり、ブルースか演歌でも表現できない。マハリヤ・ジャクソンのゴスペルスかスピリチュアルズ(黒人霊歌)のoomphによるsoul-cry(魂の叫び)にまで遡ってみるか

これらを生粋とすれば、true-blueとウーを重ねるか、dyed-in-the-woolが一番近い。後者は染め抜かれたウール(wool=羊毛)という格調の高い英語表現を考慮して、読者にも勧めたい。しかし、私のイチオシは、やはりtrue-blueだ。この中には、志操堅固、信念を曲げない保守主義者(長老教会派信徒)という意味が込められている。とにかく、ホンモノ(genuine)というニュアンスだ。

 

2009年9月1日
紘道館館長 松本道弘