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住めば都

住めば都 ―― grow on 〜、Nothing like home.
どちらもよく耳にする。onは「〜から離れずに」という意味。It grows on me. が原意である。Nothing like home. も同じ。必ずしも好きではないのに、離れられない「家」のような存在になる。とくにイチオシは、It grows on me.

「住めば都」を『最新日米口語辞典』で引くと、こう出ている。
「Home is where you make it. Be it ever so humble, there’s no place like home. とカッコよく訳している和英辞書を見たことがあるが、意味が違う。これは「埴生の宿もわが宿――つましいところだが、わが家ほどのところはない」の意(P.450)

ネイティヴの力を借りて、編集者が作文したものだが、私はこの頃から、grow onを加えて欲しいと、この言葉を強引に加えさせた。三十代後半の私の英語力より、日本語ペラペラのネイティヴの意向が重視されたのだ。

「ディベートは死んだ」と日記に書いた――ギリギリと歯ぎしりしながら。よほどくやしかったのだろう。There is no place like home. は間違ってはいない。見出しの英語表現は耳にしたことがないが、Nothing like home.(家にまさるものはない)というネイティヴ英語はしょっちゅう耳にする。

No place like home. でも通じるはずだ。これまで私が低く見た和英辞典の中にも、キラリと光る訳はいくらでもある。今ここで強調したいのは、home(ホウム)とgrow(グロウ)を通る、「オウ」という二重母音の音*ャのことだ。

Growも成長するが、他を突き離すことはない。「ぼくんちのおうちも大きくなったよ、帰ってきてね」という感謝の気持を感じさせるマグネティックな音霊なのだ。

お世話になった人に、恩を感じるときに、I owe you. という表現を用いる。IOUは借用証書のことだ。オウは負うことだから、相手を逃さない。古英語のtogianとは力ずくで引くことだ。スコットランドでは、towはropeのことだ。

レッカー移動のことを英語ではtowawayという。レッカー車は、tow truckのこと。「トウは牽引する」と音霊法則を覚えていれば、英語もgrowするだろう。Growには寄せつけるというエネルギーがあるというのはそういうことだ。

『最新日米口語事典』編纂プロジェクトで私も一皮むけた(outgrow my old self)。失ったものも多いが、それらは必ず戻る(grow back)。完成までかなり深い傷を負った。まだまだ改善すべき余地のある辞書だが、すぐにこの思い出深い辞書へ戻ってくる。歳を重ねても重ねても。

やはり、住めば都だ。It (the dictionary) grows on me.
相手がネイティヴなら、It sure does. (まさにその通り、住めば都だ)と明るく答えるだろう。

 

2009年8月18日
紘道館館長 松本道弘