::松本道弘 巻頭言
::例会報告
::松本道弘プロフィール
::紘道館とは?
::英語道とは?
::館長ブログ
::松本道弘 日記
::斬れる英語コーナー
::書き下ろしエッセイ
::松本道弘著作集
::講義用テキスト(PDF)
::松本道弘対談集(動画)
::ナニワ英語道ブログ
::日新報道
::TIME asia
::ICEEコミュニケーション
  検定試験
::ワールドフォーラム
::フィール・ザ・ワールド
 
お問い合わせ先

トウキョウ・ソナタ 〜その2〜

戦争、リストラ、失業、家庭崩壊、政治は迷走 ―― そんな苦いニュースを毎日目や耳にしていたが、まるで別世界のできごと。ところが、それらが急に現実のものになる。
リスク管理(if)がクライシス管理(when)に変る。

昨日、私の絵日記で初代英語武蔵を襲名し、利より名を重んずるという旨の口上を書き留めた。武士は命よりも面目を失うことを恐れる。
それがこの映画を観てから、思考が変った。男はどこまで面子を守らなければならないのか……と。

英語武蔵にとり、最大の危機管理の時期が訪れた。この映画の主人公のパパ(名優・香川照之)は渋い。心から拍手を送りたくなる。不朽の名作『生きる』を演じた志村喬とだぶらせる渋さがある。

どん底に堕ちても、パパとしてのプライドを失わない。私が最も感動したシーンは、トイレ掃除のときに拾って、ポケットに入れた万札入りの現金封筒(百万円は入っていたと思う)を、遺失物ボックスに捨てて去る、ところだ。

ライターの相田冬二の眼はこの場面を逃さない。
「プライドをゴミのように捨て去ったとき、真のカクメイは訪れる」
ここにサムライが死守するプライドがあった。

同じく私を感動させた映画『イントゥ・ザ・ワイルド』がたどり着いた真理、「しあわせとは人のために生きること」だったが、それはまだ問いかけのように感じた。その問いに対する解答はこの映画が教えてくれたようだ。

自分独りが生きるため。いかにどん底から這い上がるか。その希望を与えてくれる映画。面子とは何か。男の名誉とは何か。英語武蔵を襲名した私はこう思う。だれかが活きるときにしか、プライドを捨ててはならない。人の面子とはそれほど重いものだ。

いわんや武士の面目をや。
この映画はみんなに勧めたい。私ももう一度観たい。家族に少しでも隙間風のある人の全ての人に勧めたい。ふと戦後日本が失った「家」とは何かを教えてくれる。

 

2008年11月14日
紘道館館長 松本道弘