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ある旅人

旅人も疲れると休む。
館長ブログで血液型を書き続けていると、ペンを休めたくなる。
ちょっと私と喫茶店でコーヒーでも飲まないか。みんなも人生で疲れているだろうから。

最近、ショッキングな映画を観た。ショーン・ペン監督最高傑作といわれる『イントゥ・ザ・ワイルド』(Into The Wild)だ。究極の旅人の姿が描かれている。
すべてを捨てて荒野をさまよい歩いたクリス・マッカンドレス(1968−1992)の物語。実話だから迫力がある。

いかに多忙とはいえ、新幹線で旅をする私ではない。エリートが全てを捨てた。財産はすべて寄付した。ドルも焼き捨てた。すべての「モノ」を捨て、文字通りゼロの状態で旅に出る。複雑な家庭がいやになって、逃避する。

子供だって、家出をしたくなる時があるから、わからないでもない。
でも、ちょっと卑怯ではないか。
『荒野へ』(ジョン・クラカワー著、集英社)の作者ノートの冒頭から凄まじい。

―― 1992年の4月、東海岸の裕福な家庭に育ったひとりの若者が、ヒッチハイクでアラスカまでやってきて、マッキンレー山の北の荒野に単身徒歩で分け入っていった。4ヵ月後、彼の腐乱死体がヘラジカを追っていたハンターの一団に発見された。

餓死していたのだ。荒野を愛し、荒野に殺された若者の物語。
それで本望といえるか。知人を悲しませて……
犯人は毒草だった。薬草だと信じて食べてしまったのだ。

犯人は誰であってもいい。マッカンドレスはすでに悟っている。食べ物は、神聖なものと。
「ぼくは生まれ変わったのだ。これはぼくの夜明けである。ほんとうの生がはじまったのだ」との手記を残している。

この旅人は、読んで書いて、悟った。
道中、トルストイの『家庭の幸福』を読み終えて感動している。
「人生における唯一の確かな幸福は他人のために生きることだ、という彼の言葉は正しかった……」と。
無私。究極の愛。自己弁護はない。「のに」とは口が裂けても言わない。
ここまでくれば、この旅人の血液型は何だろうと問う人はいなくなる。
この究極の旅人に脱帽して、讃美を送るしかない。

―― コーヒーが冷めちゃったな。
また血液型のブログ論議で会おう ―― 平和時に戻って。
次回はO型だったか?

 

2008年9月19日
紘道館館長 松本道弘