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サムライと『イカの哲学』 〜その3〜

明日死ぬ若き特攻隊の青年の胸をよぎる問いは何だろう。
「そうだ、大切なことは実存を知り、感じることだ。オレはつまらない一疋のイカ。明日、オレは切り刻まれて、人間の食卓に並べられる。それでいいのだ。オレの死でだれかが生かされるのだ――オレの死を乗り越えて」

ちっぽけなイカの脳がそこまで考えるはずがない。しかし、イカのばかでかい眼は、地球をじっと観察している。

死ぬことなど恐ろしくはない。
より短命なカマキリもそうだろう。
武士道なり、といった仰々しい哲学的正当化など必要としない。
ジョルジュ・バタイユ(20世紀の思想家)は、この非連続な固体という思想の殻を破り、いのちの連続性を求める無意識の行為をエロティシズムと名付けた。

生命は非連続な個体性を自分の力で生み出すものだと考える中沢新一は、ここに生命がしめす矛盾に神秘を見いだす。

精子と卵子は、それぞれ非連続の存在であるが、それらが一つに結びつくことにより、連続性がスタートするのが不思議だ。自己と非自己の「間」は何か? 中沢新一は多分、このように思考を巡らし、すでに南方熊楠が没頭した、変形菌の世界に入っている。

イカ、カマキリ、粘菌。武士道というイデアに惑わされず、すでに実践し続けている。
They just do it.
サムライが勝てない非自己の世界がある。
同時通訳者が勝てない没我の境地がある。

このブログを書いている私の中にも、何かをこの世に残したいという産卵本能がある。「死にたい」は何かを「残したい」というエロチックな衝動と奇しくも一致する。

2008年4月2日
紘道館館長 松本道弘