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〜千の風になって〜 その3

行動する学者・南方熊楠。そんなに私に似ているか。
気になる人物。強過ぎる相手に、挑戦する気にもなれない。
天才か狂人か。いや天才で狂人と表現した方がよさそうだ。

私がちょくちょく田辺に出向くのも、南方熊楠という怪物の霊がそこにいるからだ。
世渡りの下手な変人。天才は周囲の人を忙しくさせるというが、だらしのなさにおいて、私とも似たところがある。

どちらも絵が巧く、絵日記は芸術作品。
どちらも語学の達人。熊楠は18カ国語をかじっていた。
どちらも猫が大好き。話題がだだっ広い。交遊の広さも常人離れ。
柳田國男、孫文、昭和天皇、土宜法龍(高野山管長)と枚挙にいとまがない。

いつものように独りで南紀を旅した時のことだ。田辺市の公民館で、かの有名な学者、上山春平が講演をするという。
「南方熊楠を産んだのは田辺の町です…」
話はわかりやすい。この学者も田辺で暮らしたことがあるから説得力がある。

話が終わり、私が真っ先に質問をした。
「あのう、熊楠の研究家は多いのですが、今熊楠が生きていたら、何をすると思いますか」
はっきりした答えは覚えていない。具体案はなかった。もしも(if)という質問は、学者としての使命感を問い糾す、現実的な問いかけであった。

単刀直入すぎた。このロジックで空気を乱したのか。
少なくとも、「この熊野の環境破壊を知って悲しむでしょう」くらいの解答を期待したが、それもなかった。学者は、安全な立場からでしか、物が言えないのか。

その話をしたら、世直し仲間の一人が、「だから陽明学の松本さんにお願いしたいのだ」と言う。だが熊楠は私の師ではない。挑戦相手だ。
男が生涯をかけて闘うだけの価値がある巨人である。
合気道の創始者であった植芝盛平すら、度胆を抜かれ、手も足も出なかったという国際派の学仙 ―― 凡人の私などの才能が及ぶ相手ではない。

しかし、私の気持ちはすでに、師・西山千が送ってくれた緑色のカマキリに擬態して、blueからgreenのアオに変っている。

2007年11月9日
紘道館館長 松本道弘