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〜 黒川紀章から受けた屈辱 ― 後編 〜

(いいかげんにしろ! 黒川紀章! オレを信じて自然な日本語を喋れ)
と言いたかった。いや、
(あんたも芸術家だろう? オレも芸術家だ!)
とも怒鳴りたかった。
しかし、もしも私が業を煮やして、日本語で「いいかげんにしろ黒川!」とわめけば、反応はいかがなものだったであろう。多くの外国の芸術家は驚き、会場は騒然となっただろう。

そう考えると、耐えなければならない。
同時通訳者は、目立ってはならない忍者である、という私説が生まれたのは、この時だ。
忍の一字。刀の下に心を隠すのが忍。この無念は四十年近く続いている。

黒川紀章(73)。世界的に知られた建築家。妬みたくなるほどの、賑やかな業績。しかし、裏の世界を低くみる、表の男。いずれ芸人に逆襲されるに違いない、と半ば、失楽園を心の底のどこかで念じていた。
(poetic justiceに見舞われればいい)。私も執念深いところがある。

しかし、その後も彼はトントン拍子。
あの大女優若尾文子(73)と結婚をする。別居中の妻がいながらの不倫カップル。太陽か芸術家しか許されない奔放さ。
前に、イサム・ノグチについてのエッセイを館長ブログで書いたことがあるが、どうも成功している「表」の芸術家の人生模様が気になる。
英語道は、人生道。人生は芸術だから、ちょっとしたすれ違いにもドラマが起こる。

その男が、急に東京都知事選に立候補した。女房の協力を得て、少しは票を伸ばしたが落選。また参院選に出るという仰天情報。
なんというご乱心ぶり。
女房についに家から追い出されたらしい(『週刊新潮』6月7日号)が、今もマスメディアの好餌となり、晩節を汚している。

芸人同士の嫉妬(professional jealousy)は恐ろしい。
人は嗤う。He had it coming.(自業自得さ)と。
私の英語道人生もそうならぬよう、黒川悲劇を他山の石とし、自戒を込めて、書き下ろしてみた。


2007年6月21日
紘道館館長 松本道弘