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英語道弐段Y村の品格

 理想的な塾頭が一人いた。
 ICEEでチャンピオンになったY村という男だ。ネイティヴ・ジャッジが挙って、弐段に上げるべきと主張したが、「私の文化(grow younger)に育った門下生は、有段者以上は、ネイティヴじゃなく館長である私が裁定すべきだ」と譲らない。
 その日の夜、幹部たち(5〜6名だったと思う)と上野のサウナで語り合った。Y村を弐段にすべきか初段にとどめるべきか。談合といえば、それまでであるが、「段」となると人間性、品格、風格などが問われる、数値化できない世界だ。
 このY村という男の判定についての会談が延々と深夜まで続いた。Y村は弘道館(今の紘道館)の誇りであるが、一般的に人は弱いもので、ピークを極めると、驕りが出て、勝手に「卒業」(この言葉は英語道文化にない)し、抜け駆けしてしまわないか、そして多くの塾生が尊敬するY村を失うのではないか、という危惧の念から、「もう一年は初段で我慢してもらうのが、仲間としてベスト」という結論に至った。
 さて、本人にそう告げるのは、館長の私しかいない。館長の汚れた仕事だ。私塾では、師弟も対決するので緊張する。Y村を呼び出し、一対一で話をする。
 「Y村君、外国人ジャッジたちは君を弐段にしたいといっている。しかし私は初段にとどめたいと思うが…」と切り出す。
 その時、Y村は、「光栄です」とたった一言で、表情を崩さない。私の方が不安になり、「ネイティヴは弐段だといっているんだよ…」と確認をとる。
 その時の彼の答えは、能面のままの表情で、「私は先生の弐段の頃の実力は書を通じて知っています」であった。この男は切腹を命じても、表情を変えずに、「光栄です」と答えるだろう。(この松本道弘に、こんなにクールに反応できるだろうか…)
 背筋が寒くなった。館長が塾頭に負けることもある。そのY村という男は、後のICEEでもチャンピオンになり晴れて弐段の地位を獲得した。だれ一人文句を言わす、全ての塾頭から祝福を受けた。皆がこのY村に一目置いたのだ。
 裁いた館長が塾頭に裁かれることもある。その時、残心を怠らなかった彼はすでに英語道弐段だった。英語は私の目からみて、まだまだだが、彼には私にはない品格が備わっていた。
 彼は現在、有名老舗酒店(http://www.toshimaya.co.jp/index.html)の社長をつとめている。Y村 ―― 私が最もいじめた男である。

 
2007年3月4日
紘道館館長 松本道弘